平成基礎科学財団解散のお知らせ

 

 

 平成基礎科学財団は200310月に文部科学大臣の認可を受けて発足し、基礎科学に関する理解の増進を図り、基礎科学に関する研究・教育活動を奨励し、わが国の基礎科学の振興に寄与することを目的に設立されました。このような財団の目的・事業に深い理解をお示しくださり、財団に対する寄付、財団の事業への協力等を通して温かい支援をしてくださいました多くの方々のご援助により、これまで10数年にわたり円滑に事業を進めてまいりました。このような財団の活動を可能にしてきた、これまでの皆様方の財団に対する熱いご支援に対し心から感謝し、厚くお礼申し上げます。

 

 さて突然のお知らせで申し訳ございませんが、諸般の事情により20173月末をもって財団のすべての事業を停止し、財団を解散することにいたしました。

 

 財団を解散することはやむを得ないと私が考え、また、理事会、評議員会の皆様もお考えになった理由は、財政上の問題と人事上の問題との2面がございます。

 

 第1の財政上の問題については、「財団設立の趣旨・財団運営のための一人一円運動の構想について」に記載いたしますとおり、財団は私の創意による一人一円運動という理念による賛助会費で運営してまいりましたが、多くの地方自治体における財政の逼迫を理由として、ことに地方自治体の首長が交替するさいに、賛助会費を減額し、あるいは賛助会員を退会するという事態が年々深刻になってきたため、一人一円運動という理念に基づいて運営に必要な財源を確保し、財団の事業を長期に継続することは困難な状況になっていることでございます。これは、わが国の基礎科学・芸術等の非営利の文化事業が、その財源を主として国からの財政支援に依存しており、欧米諸国と異なり文化的事業に寄付する慣行が社会的に未だ定着していないこと、このような慣行を確立するための法整備が遅れていることに根本的な原因があると存じます。

 

 第2の人事上の問題は、私自身の高齢化に加え、これまで理事、評議員、監事として財団を支えてきてくださった方々も高齢化しているという事実です。より若い世代の研究者の方々にこの事業を引き継いでいただくことは好ましいこととは考えません。彼らはまだ現役で研究に従事していますので、これらの方々に後任をお願いするよりも、むしろ研究に専心していただき、いっそうの成果を挙げていただくことが望ましいと考えております。

 

 このような事情で、まことに遺憾ながら、平成基礎科学財団を解散することにいたしましたが、一人一円運動のようなユニークな考え方に基づく平成基礎科学財団の活動が、今後のわが国の基礎科学振興のあり方にひとつの良い先例になることを私としては切に願っております。

 

 公益財団法人平成基礎科学財団は200310月に設立以来、種々の事業を実施、私としては誇るに足る成果を挙げてきたと自負いたしております。これら事業の具体的な内容は、「財団がこれまで行ってきた事業について」に詳細にご説明いたしているとおりでございます。

 

 最後に、解散を決めた経緯と今後の経過措置についてご報告いたします。 20163月の理事会において、私から、20173月末で財団を解散したいと提案し、同理事会、その後の6月の評議員会で検討していただいた結果、私の提案にご同意いただき、正式に財団の解散を決定した次第でございます。20173月末で財団を解散することにしたのは、2016年度についてはすでに実施計画が決定されている事業が若干存在するためです。

 その結果、2016年度の事業は平常通り行ないますが、20173月末をもって財団の一切の事業を停止し、20174月以降は清算人会を設置して残務処理を行います。清算人会は財団の現理事全員で構成し、代表清算人は現理事長の私が務めることになります。

 財団事務局の事務所は20179月末に貸借契約を解除し、それまでに必要な残務整理を終える予定にしております。

 また基本財産を含む残余財産は、一括して私の研究母体であった東京大学素粒子物理国際研究センターに贈与させていただくことにいたしました。東京大学素粒子物理国際研究センターが財団の残余財産をもっとも有効に利用することができる施設であると考えたからでございます。

 これまで賛助会員として賛助会費を納入していただいてきた会員の皆様に対する会費納入のお願いや寄付金の受け入れは2016年度をもって終わりにさせていただきます。

 

 以上、ご了解下さいますよう、お願い申し上げます。

 

公益財団法人平成基礎科学財団

理事長 小柴 昌俊

 

*「財団設立の趣旨・財団運営のための一人一円運動の構想について」

*「財団がこれまで行ってきた事業について」

 

 

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財団設立の趣旨・財団運営のための一人一円運動の構想について

 

1.財団設立の趣旨と財団設立について

 私は、2002年にノーベル物理学賞を受賞した後、わが国の基礎科学振興のために若い人々に何らかの貢献をしたいと希望し、この希望を実現するために、多くの方々の賛同を得て財団法人平成基礎科学財団(以下「財団」と申します)を設立いたしました。当時の制度では財団法人の設置には基本財産として1億円の基本金を準備することが必要でしたが、私がノーベル賞賞金を含む4,000万円を拠出し、それに加えて、カミオカンデのニュートリノ実験に不可欠の測定装置である超大型光電子増倍管の製造を通しニュートリノ研究を支えてくれた浜松ホトニクス社長の晝馬輝夫氏から個人献金として6,000万円を拠出していただき、財団設立に必要な基本財産1億円を用意いたしました。

 200310月に財団は文部科学大臣の財団法人としての認可を受けて発足し、以来、今日まで、私が財団の理事長をお引き受けし、財団の理事会・評議員会における審議を経て、業務の運営を行なってまいりました。また国の公益法人に関する制度の変更にともない、財団は20114月より公益財団法人になりました。

 

2.財団の運営のための一人一円運動について

 基本財産は特別の事情がない限り取り崩すことができませんので、財団の運営は財団を支援していただいている賛助会員の会費、およびその他の寄付金に依存して行ってまいりました。賛助会費は、財団の賛助会員になっていただいた

@県や都市等の地方公共団体ならびにその他の法人からの頂戴してきた賛助会費と

A個人からの賛助会費

との2種からなります。ただし、賛助会費による収入の大半は@の地方公共団体、法人からの賛助会費が占めてまいりました。

 私が財団の設立を決意した要因について少し触れることにいたします。財団設立のさい、財団の目的・事業にできるだけ多くの方々にご協力をいただくために特に意識した考え方は、一人一円運動とも言える考え方でございました。これは、基礎科学振興のための活動を広く国民から支持していただくための望ましい形として、多くの方から毎年一人一円を財団の運営のために寄付していただくという構想でした。そのための具体策として、多くの県・市町村等の地方自治団体に賛助会員になっていただき、当該の自治体の人口に相当する金額(人口100万の自治体は100万円)を毎年財団に寄付していただき、その寄付金により財団を運営するということを考えたのです。

 私自身が精力的に多くの自治体の首長の方々にお目にかかり、財団に関する私の構想をご説明し、ご賛同を得て賛助会員になっていただく努力をいたしました結果、幸いにも相当多数の自治体が財団の目的・趣旨に賛同し、賛助会費を支出してくださいました。

 一人一円運動の趣旨に添って特定の企業に寄付をしていただくお願いは、敢えて差し控えてまいりましたが、私どもの研究業績等を評価し、また一人一円運動の趣旨を評価して多数の企業、個人も賛助会員になってくださり、なかには私の想像を遙かに超える多額の寄付を

 

 

していただいた企業・個人もおいでになります。いずれにしてもこのような形で財団は支障なくこれまで運営することができました。

 財団設立以来、多数の自治体から一人一円運動の理念に応えて賛助会費を拠出していただいてきましたが、昨今の地方自治体の財政が逼迫していることを理由として、賛助会からの退会、あるいは、賛助会費を減額なさる地方自治体が年々増えてまいりました。有り難いことに満額の賛助会費を今日まで継続して納入してくださり、財団を積極的に支援してくださっている地方自治体もありますが、全体として財団に寄付していただく賛助会費の総額は次第に減少傾向にあり、特に近年の状況から判断すると財団の将来の運営の見通しがつかない状況になってきています。

 

 参考のために地方自治体からの賛助会費と賛助会員数の年次変動の概略の様子を以下に記します:

  2004年度 2720万円(14件)  2006年度 1571万円  (16)

  2008年度 1508万円 (12)   2010年度 1989万円  (13)

  2012年度 1098万円 (10)  2014年度  582万円  ( 9)

  2016年度  394万円( 7件)

 

 財団はこれまで行ってきた事業を通して一応の成果を挙げてきたものと思いますが、長期にわたり暖かく支援してくださった皆様に、改めて厚くお礼申し上げます。

以上

 

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財団がこれまで行ってきた事業について

 

財団の主たる事業として、以下の事業を行ってまいりました。

A. 新しい発想と創意に満ちた理科教育プログラムの開発・実践を通し、著しい教育効果をあげた団体または個人を顕彰するための「小柴昌俊科学教育賞」の贈呈、

B.基礎科学の重要分野である素粒子研究において、素粒子実験または素粒子理論で優れた研究業績をあげた研究者を顕彰するための「戸塚洋二賞・折戸周治賞」の贈呈、

C. 基礎科学の諸分野に関心を持つ若い人材を育てる一助として、基礎科学研究の最前線で活躍している研究者による高校生・大学生を対象とする講演会「楽しむ科学教室」の開催、

D. 基礎科学を学ぶ教材としてのDVD開発と配布の4事業を行なってきました。

 

それぞれの事業の内容と実施経過の概略は以下の通りです。

 

A.「小柴昌俊教育賞」は幼児や、小・中・高校生の自然科学への興味と関心を高め、かれらの創意と主体性を尊重しながら科学的な能力の育成を図ることを目的とし、2004年度から財団の事業の一つとして設置し、これまで継続して受賞者を選び顕彰してまいりました。賞は優秀賞(賞金100万円) 1件と奨励賞(賞金50万円)3件からなり、他薦あるいは自薦による応募者の中から財団の設置した選考委員会で候補者の選考を行ないました。最初に応募書類に基づく書類選考で選考対象に相応しい候補者を選び(一次選考)、次に選考委員による現地調査と候補者の面接を行い、最終的な受賞対象候補者・候補団体を決定しました(二次選考)。 最終審査は毎年3月に受賞候補者による応募内容のプレゼンテーションと質疑応答を行い、その中から優秀賞と奨励賞の対象者を選考委員会で決定しました。

 理科教育には生徒自身による観察や実験、効果的な教材・教具の利用、観察・実験結果の主体的な理解等が欠かせないものですが、受賞した教育内容には選考委員も驚くほど創造性・意外性に富むものもあり、学校での理科教育ではえられない児童・生徒の科学的能力の向上を達成した教育プログラムが多く見られました。そのような教育成果をあげた個人・団体を顕彰することは、これからの日本の科学を支える有為な人材の育成、理科離れが懸念されている今日の教育現状を正しい姿に変えてゆく機運を支える一助になるものと思われます。

 

B.「戸塚洋二賞・折戸周治賞」は基礎科学の重要な分野のひとつである素粒子研究の分野で、実験または理論研究で優れた業績をあげた研究者の顕彰を行なう目的で2009年に設置しました。戸塚洋二、折戸周治の両氏は私の研究を長年にわたり支えてくれた研究者であり、数々の優れた研究業績をあげてこられましたが、不幸にして早世されました。お二人の素粒子研究に対する功績を称える意味と、私の両氏に対する強い感謝の思いを込めて、賞の名称を「戸塚洋二賞・折戸周治賞」にいたしました。

 いずれの賞も賞金100万円、財団はそれぞれの賞に対して選考委員会を設置し、財団の依頼した推薦人により推薦された賞候補者につき慎重に審査し、最終の賞候補者を決定してきました。素粒子研究、特に素粒子の実験研究では、非常に多数の研究者がグループを作り協力して研究を進める必要があります。したがって、優れた研究業績をあげた研究者を顕彰する際に、特定の個人を選ぶのには多少の困難が伴いましたが、受賞対象者は1名から3名までとし、受賞対象研究で主たる役割を果たした研究者を選び顕彰を行なってきました。

 素粒子分野は多様な基礎科学の分野の中でも最も基礎的な分野のひとつであり、また相当多数の日本人がこの分野の研究でノーベル物理学賞を受賞していることで示されているように、わが国が伝統的に力を注ぎ世界に貢献してきた基礎科学分野であります。今後ともこの分野の更なる発展を支える一助として「戸塚洋二賞・折戸周治賞」による優れた研究者の顕彰を行なうことは、素粒子分野の研究者の今後の活動にプラスの影響を与えるものと考えています。

 

C. 基礎科学に関心を持つ若い人材を育てる一助として、2003年度より高校生・大学生を対象に全国各地で 「楽しむ科学教室」 を開催してきました。その多くは東京で開催し、東京大学理学部に小柴ホールが設置された後は、小柴ホールで開催いたしました。また財団の賛助会員になっている地方自治体からの申し入れに応じて当該地方でも教室を開催し、年に数回は地方で開催してまいりました。開催回数の総計は100回近くになり、201612月に鳥取県で開催予定の最終回の教室が第101回の教室になります。参加費は無料で行なってまいりました。

 教室では、基礎科学の分野で優れた研究業績をあげ、第一線で活躍している研究者に講師をお願いし、講演内容の質を落とさずにその分野の研究の生の状況と未来の夢について分かり易く講演していただきました。また長時間の質疑応答の時間を設け、参加者が自由に質問する機会を与え、質問を通して自ら基礎科学の面白さにふれる楽しみを感じてもらうようにしました。最初は講演時間2時間40分、質疑応答時間30分でしたが、後に講演時間2時間、質疑応答時間1時間に変更しました。

 講演内容は各回とも相当高度な内容でしたが、参加者は自らの意思で自主的に参加した高校生・大学生で、講演内容についてある程度の予備学習をして参加する参加者も多く見られ、極めて熱心に講演を聞き、質疑応答の時間帯で質問が途絶えることがない状況でした。また長時間の講演と質疑応答の時間を通して、自然に講師と参加者の間に同志的な一体感が生まれてくるようにも思われました。各回の参加者は数10人から100人を少し超える程度の比較的少人数ですが、かえって熱気のある教室の雰囲気が生まれたようにも見えました。「楽しむ科学教室」での講演内容は多岐にわたりますが、素粒子・宇宙科学分野、生命科学・脳科学分野の講演が最も多く、その他に光物性、化学、数学等の基礎研究に関する講演も行なわれました。

 このような講演会が基礎科学振興にどのように役立つかを短期的に見極めるのは困難ですが、講演会終了後も講師に長時間会場に残っていただき、参加者個人と講師との個人的な会話の機会を設けました。その際に将来の研究分野を決める選択の仕方、希望分野に進むための道筋等についての講師への質問も多く聞かれ、参加者の中から将来の日本の基礎科学を支える人材が生まれてくるように思えました。

 

D. 2005年度より小柴ホールで開催した「楽しむ科学教室」(各年度4回)の実録をDVDに作製し、教材として全国の大学や高校等に無料配布してきました。2010年度まではNHKが会場にて「楽しむ科学教室」の終始を収録し、地上デジタル教育テレビでそのまま放送し、その映像を財団が教材用DVDに作製してきました。2011年度以降はNHKが本事業から撤退したため、財団独自で「楽しむ科学教室」の終始をDVDに作製し、引き続き全国の希望する高校・大学等に無償配布してきました。これまで作製したDVDの作品数は36作品、各作品の配布先は400件弱になっています。第一線の研究者の生の声を聞ける機会を若い人々に与える一助になれば幸いと思っています。

以上