「折戸周治賞」選考結果 

           2017年2月20日

 

「折戸周治賞」選考委員会

選考委員長 山田 作衛

 

選考委員会で慎重な審議を行い、下記の通り決定いたしました。

受賞者:
 照沼 信浩(高エネルギー加速器研究機構 教授)

受賞対象:「電子加速器ナノビーム技術の先駆的成果」  

授賞理由:
  
 次世代の高エネルギー加速器として、電子・陽電子リニアコライダーの開発研究が進められている。研究目標の中で、加速効率の向上や加速空洞の量産化と並んで重要な課題は、ナノメーターサイズのビームを衝突させるための高度なビーム制御技術の確立である。前者は到達エネルギーと建設コストに係る課題であり、後者は衝突頻度を上げ、物理の成果を上げるために欠かせない課題である。授賞対象は後者に関する研究の画期的な成果である。
 リニアコライダーを目指す開発研究は、世界の主要な高エネルギー加速器の研究所が参加する国際協力で進められているが、高精度ビーム制御技術の確立を目指して、高ネルギー加速器研究機構では、世界で唯一の試験加速器を国際協力で建設し、共同研究を進めている。すなわち、低エミッタンスビームの生成のための試験加速器ATFでの研究と、作られた高精度ビームをATF2施設に引き出し、ビーム制御や衝突点での収束技術を開発する研究である。
 照沼氏は、2005年からATF2における国際チームの代表として研究をリードし、ビーム輸送系の高精度制御、ナノサイズのビームの大きさや位置の観測の研究を進めて、リニアコライダーで要求される精度をほぼ実現した。そのために、高速電子回路によるビーム位置モニター、レーザーワイヤーやレーザー干渉縞を標的とする逆コンプトン散乱のX線観測によるビームサイズ計測など、先駆的な手法を多数導入した。ビームエネルギー250GeVのリニアコライダーではビーム収束点で縦方向のビームサイズ約6nmを目指すが、エネルギー1.3GeVATF2では、これに相当するビームの縦方向サイズは37nmである。長年の努力の末、現在ATF2では41nmまで到達している。この値は世界で初めて得られた高い精度で、リニアコライダーのために実用の領域にあり、極めて重要な実証成果である。一連の技術は、リニアコライダーに限らず、高精度ビームを要する加速器に適用できる画期的なものである。
 一連の研究はATFに始まる長年の国際研究であるが、照沼氏は当初からATFでの研究に加わっており、ATF2での開発段階でグループを主導し、上記の成果を達成した。折戸周治氏賞にふさわしい功績である。
 目標精度を実現するには、収束用電磁石などのビームライン要素の位置も相応の精度で設定する必要があり、各要素は極精密な可動機構を用いて制御されている。東日本大震災に際しては、地盤変動のためATF,ATF2ともに一部破損と乱変動の被害を受けて、研究は中断を余儀なくされた。今回の成果は、こうした被害からの復旧作業を経て達成されたことを補記する。

                                         以上

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「戸塚洋二賞」選考結果 

           2017年2月20日

「戸塚洋二賞」選考委員会

選考委員長 荒船 次郎



選考委員会で慎重な審議を行い、下記の通り決定いたしました。

受賞者:中村  聡         (大阪大学大学院理学研究科 特任助教) 
      佐藤  透         (大阪大学大学院理学研究科 准教授)
       久保寺 国晴     (米国South Carolina大学物理天文学部 教授

受賞対象:「精密なνd断面積計算による太陽ニュートリノ問題解決への貢献」  

授賞理由: 
 
 中村、佐藤、久保寺3氏の業績は、ニュートリノと重水素の衝突断面積の精密で信頼できる計算を行い、カナダのニュートリノ観測装置SNOが行った太陽ニュートリノの謎の解決に重要な貢献をしたことである。
 SNOはついに太陽ニュートリノの振動の明快な発見をしたことで、代表者のA.B.McDonald氏は、スーパーカミオカンデを用いて大気ニュートリノ振動を発見した梶田隆章氏と、2015年のノーベル物理学賞を分け合った。
 SNO実験の特徴は、スーパーカミオカンデ実験と異なり重水を用いることである。そのため重水素がニュートリノの標的となり、それによって、2種類のニュートリノ反応(荷電カレント反応と中性カレント反応)が区別できる強みがあるが、標的が原子核のため、実験の解析の基となる反応断面積には信頼できる理論的評価が不可欠である。そのため3氏は、共同研究者V.Gudkov氏と共に、ニュートリノ・重水素反応の微分断面積および全断面積を、高い信頼度と精度で計算し、SNO実験を成功に導く上で、目立たないが、重要な役割を果たした。
 彼らの採用した計算方法は、現象論的ラグランジアン法(PhLA)と称するもので、核子1体が弱いカレントを吸収して核子になるインパルス近似カレント(IA) に加え、核子2体が中間子を交換する際に弱いカレントを吸収する交換カレントの効果(MEX)を取り入れる。そこにカレント代数や低エネルギー定理で知られる知見をできるだけ取り入れる。この方法の有効性は中性子と陽子が重水素と光子になる電磁反応に同様の手法を適用し、計算値と実験値が良い精度で一致することからも確かめられている。もう一つの有力な計算法に有効場の理論(EFT)と呼ばれる方法があるが、未知のパラメタを1つ含む。それを調整することで4人の行ったPhLA法の結果によく一致するが、PhLA法は未知のパラメタ無しに計算できる点で優れ、約1%の高い精度と信頼性を持つと評価されている。

 太陽ニュートリノの謎は太陽ニュートリノの発生量の天体物理学的予言に比べ、観測値が少ない、というものであった。SNO実験では、観測するエネルギー領域で、太陽ニュートリノについて発生量が観測で決まり、その上で、ニュートリノ振動を明確化し、天体物理学的予言に頼らず謎の解決に成功した。縁の下の力持ちのように、3氏が信頼できる計算によってその成功に重要な貢献をしたことは、戸塚賞の授与に値すると高く評価されるものである。

                                                                 以上



下記の要領で、表彰式を執り行います。

日   時

2017年3月20日(月・祝)15:00−16:00

会   場

東京大学「小柴ホール」

113-0033 文京区本郷7−3−1

 

表彰式をご観覧ご希望の方は事前のお申込みが必要です。
こちらをご覧ください。