「折戸周治賞」選考結果 

           2016年2月15日

 

「折戸周治賞」選考委員会

選考委員長 山田 作衛

 


選考委員会で慎重な審議を行い、下記の通り決定いたしました。

受賞者:堺井 義秀 (高エネルギー加速器研究機構 教授)
    飯嶋  徹 (名古屋大学 素粒子宇宙起源研究機構 教授)

受賞対象:「B中間子系における小林・益川行列の精密測定」  

授賞理由:  
  

 中性K中間子の崩壊で発見されたCP対称性の破れを説明するため、小林・益川模型は3世代のクォークを想定し、クォークの質量状態と弱い相互作用の固有状態を結ぶクォーク混合行列の成分に対称性を破る原因があるとした。そこで予言されたチャーム、ボトム、トップの、当時は未知であった3クォークが順次発見され、CP対称性の破れについて更なる新しい研究の道が拓かれた。第3世代のボトムクォークを含むB中間子の崩壊におけるCP対称性の破れが理論的に検討されて、検証を目的とするBファクトリーが建設され、中性B中間子のJ/Ψ-KS崩壊の測定でCP非保存が確認された。結果は小林・益川模型の予想と整合し、その正しさを証明するものであった。

 しかし、クォーク混合行列全体を確定するには、さらに多くの崩壊モードを観測し、全行列要素を精密に測定する必要がある。ことに、CP対称性を破る崩壊モードが上記の典型的な崩壊のほかにもいくつかあり、それを含めて出来るだけ多くの崩壊過程を精密に観測した上で、行列全体の整合性を確認しなくてはならない。

 B中間子が荷電パイ中間子対に壊れるモードのCP非対称性からは、J/Ψ-KSから得られるものとは別の行列要素が測定できる。実験当初の成功に引き続いて、これらを含む幅広い解析が続けられ、Bファクトリーでの研究は精密測定の段階に入った。堺井氏は、一連のCP非保存の研究の中で要となるB中間子識別のチームをリードした後、さらにCP非保存の測定全体のまとめ役としてグループの成果に貢献した。とりわけ信号の有意性を検証する統計的手法を開発したが、これは今では世界中で用いられる手法となっている。また、飯嶋氏は荷電B中間子がタウレプトンとニュートリノに壊れる極めて稀な崩壊を検出し、第3世代と第1世代を結ぶ行列要素の絶対値の大きさを測定した。これは微小であり、かつタウレプトンの崩壊がもう一つニュートリノを伴うために、測定は極めて難しい。しかし、上の測定と合わせて、小林・益川行列全体を評価する上で、重要な量である。

 両氏はそれぞれの立場から実験グループの中で指導的な役割を担って研究を推進し、これらの測定に成功した。現在も、KEKでは後継のスーパーKEK-BBelleIIが建設中であり、さらに大きな国際共同実験が間もなく開始されるが、両氏はそこでも引続き指導的役割を果たしている。このように、両氏とも小林・益川行列の精密測定に貢献して、B中間子のCP対称性の破れに関して多大の成果を上げ、今も中心的貢献を続けている。これらは折戸周治賞にふさわしい功績である。

                                                                       以上


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「戸塚洋二賞」選考結果 

           2016年2月15日

「戸塚洋二賞」選考委員会

選考委員長 荒船 次郎


 

選考委員会で慎重な審議を行い、下記の通り決定いたしました。

受賞者:西川 公一郎 (高エネルギー加速器研究機構 名誉教授)
        中村 健蔵  (東京大学数物連携宇宙研究機構 特任教授)


受賞対象:「加速器ニュートリノによる大気スケールのニュートリノ振動の検証」  

授賞理由: 
 
 1988年にKamiokande実験で兆候が発見され1998年にSuper-Kamiokade 実験で確実となった「大気ニュートリノ振動現象」の発見は、素粒子ニュ−トリノが有限な質量を持つという重要な発見であった。さらに続いた太陽ニュートリノの振動現象の発見は、振動する粒子名(フレーバー)と振動の波長(質量の2乗の差に基づく)が大気ニュートリノ振動とは異なるもう一つの重要な振動の発見であった。これらの振動の発見に対し2015年のノーベル物理学賞が授与された。
 大気ニュートリノの振動の発見の初期に問題とされたことは、人間の手でコントロールされない宇宙線を用いての発見であったため、宇宙線現象に近い分野の専門家には振動の発見は確信されても、一般に宇宙に関係した現象には未知の過程や現象が隠れている可能性が、非常に少ない可能性にせよ、在り得るという考え方もあることであった。そのため、その可能性を否定し、誰にも遍く確信されるべく、人間のコントロールが完全な装置を用いての検証実験が強く期待された。
 そこで、K2Kと呼ばれる加速器実験が開始された。これは高エネルギー加速器研究機構(KEK)の加速器で作られたミューオンニュートリノを250km離れたSuper-Kamiokandeで受け止める間に、長距離の振動によってニュートリノの種類が変わりミューオンニュートリノが特定のエネルギーで著しく減少することを確かめる実験である。KEK内に置かれた前置検出器で、 作られたニュートリノのエネルギーの量と分布を測定し、それから期待される量のニュートリノがSuper-Kamiokandeで測定される際に振動で減少しているか否か、を測るものである。加速器ニュートリノ事象とバックグランドとなる大気ニュートリノ事象との識別は、加速器ニュートリノが時間的に鋭いパルス状であることを利用してKEKでの放出時刻とSuper-Kamiokandeでの到着時刻の測定により行われる。この実験は1999年から始まり2005年には検証に成功した。
 西川公一郎氏は早くから加速器を用いた振動実験の重要性を提唱し、1994年にKEKK2K実験の予算が認められて以来、原子核研究所の助教授として、1997年の研究所とKEKの合併以降はKEKに属して、また2000年には京都大学教授として、一貫してK2K実験の代表者を務め、実験を主導し遂行した。中村健蔵氏は1988年から東大宇宙線研究所の教授として戸塚教授を助けてスーパーカミオカンデの建設に大きく貢献した後、1995年にKEKの実験企画調整室長としてKEKに移り、西川氏の提案に基づく長基線ニュートリノ実験のビームライン建設に取り組み、西川氏と共に実験の遂行に当たった。
 この実験は陽子加速器のビーム取り出し点から、KEK敷地境界の神岡に向けたニュートリノ放出点まで、300mに及ぶ、パイ中間子発生標的、集束用電磁ホーン、飛行崩壊パイプ、大強度ビームダンプ、前置ニュートリノ検出器などで構成される。大規模で複雑な上、電磁ホーンなど開発要素の多い機器を含み、建設は困難な問題の解決を要した。西川氏はK2K実験の上記諸要素全体の代表者として、中村氏はビームラインの統括責任者として、KEKからのニュートリノの打出しを完成させ、K2K実験を成功に導いた。K2K実験によって、大気ニュートリノ-スケールの振動が世界で初めて加速器を用いた長基線ニュートリノ実験により検証された。このことは昨年のノーベル賞にもつながっていると言えよう。また、その後のT2K実験(第6回戸塚洋二賞の対象)にもつながっている。この成果は重要なもので、戸塚洋二賞にふさわしい功績である。

                                                                 以上


下記の要領で、表彰式を執り行います。

日   時

2016年3月19日(土)15:00−16:00

会   場

東京大学「小柴ホール」

113-0033 文京区本郷7−3−1

 

表彰式をご観覧ご希望の方は事前のお申込みが必要です。
こちらをご覧ください。